「認知行動療法」が「自己成長」にも使える理由

こんにちは。ヤトミックカフェ運営人の矢透泰文です。

以前のエントリーで、「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」という本について、書きました。

成人でも、適切なトレーニングをすることで知性は発達する、ということを明らかにし、組織を上げて個人の成長にコミットする「DDO」(発達志向型組織)について、紹介した本です。

DDOでは、どのような仕組み、文化で個人の成長を促すのでしょうか?読んでいくと、その方法は、極めて「認知行動療法」的だと感じました。

個人の発達を支えるDDOとは

本書によると、成人の知性は、以下の段階を経て発達するといいます。

  1. 「環境順応型」(周囲の環境が求めるコンテクストに、自分の行動を合わせる)
  2. 「自己主導型」(自分の目的を達成するために、自ら積極的に動き、必要に応じて相手の協力を仰ぐ)
  3. 「自己変容型」(他人の視点を受け入れ、自分の目的そのものから問い直すことができる)

段階を経るごとに、周囲に合わせる→自分から動く→他人を受け入れる、と、「人格的な成長」も含めた定義であることがわかると思います。

DDOは、「一人ひとりの知性の段階を発達させよう」という意志と仕組みを持った組織です。

詳しくは本書をお読みいただければと思いますが、一人ひとりを成長させることと、業績を伸ばすこと、を両立させている、むしろ両者が不可分になっているところが非常に特長的です。

成長するためのDDOの3つの要素とは

組織によって具体的な内容は異なるものの、個人の成長を支えるDDOの仕組みは、3つの要素で成り立っています。

  1. エッジ:限界に挑む個人の情熱
  2. グルーヴ:発達のための慣行とツール
  3. ホーム:弱点を引き出し、支えるコミュニティ

成長を希求する個人があり、その成長を促進する仕組みがあり、個人を支える心理的安全性の高いコミュニティがある、DDOでは、この3つの要素が、組み合わさることで、成長を実現します。

例えば、DDOでは、メンバーには「得意な仕事」ではなく、常にチャレンジをさせるよう、「成長課題に即した役割」を与えられます。慣れた仕事を続けることは許されません。

本書で取り上げている三社では、ある人が現在の仕事をすべての面において高いレベルで実行できる場合、適切な役割に就いているとはみなされない(仕事をマスターしたあともその役割にとどまろうとすれば、惰性で楽に仕事をしたがる人と評価され、自社にふさわしくない人物と判断される)。

「成長をする」とはどういうことか?

では、そもそも、「個人の限界に挑み、成長する」とは、どういうことを指すのでしょうか?これは単に、高い目標を掲げて頑張る、ということだけではありません。

知性を発達させるための「個人の成長」とは、自分の弱点、突かれると痛いところ、傷ついてしまうこと、無意識に避けていたこと、恐れていること、にしっかり向き合って、自分の「痛み」「恐怖」を乗り越えること、なのです。

本書でその「成長」を実感できるツールとして提案されているのが「免疫マップ」です。


(図は http://www.leadcreate.co.jp/column/column151127-2.html から引用)

免疫マップは、

  1. 成長・改善したいこと
  2. 成長を妨げてしまう自分の行動
  3. それを起こしてしまう無意識下の負の目標
  4. 負の目標を生み出す固定観念

で成り立っています。

人が成長を妨げる行動をとってしまうのは、その行動が、自分が無意識に恐れているものから自分を守るための「免疫」となっているからだ、というのが本書の主張です。

その「免疫」と向き合い、少しずつそれを乗り越えることで、成長につながる、という仕組みなのですが、これを読んで、まさに「認知行動療法的」だと思いました。

認知行動療法とは

認知行動療法は、ざっくりいうと、自分の認知(物事の捉え方)に焦点を当てて、その歪みを正していくことで、心の苦しさを取り除いていこう、というものです。

「療法」とあるように、医療の分野で用いられる手法ですが、免疫マップはまさに「認知行動療法」的な仕組みが適用されていました。

確かに「認知行動療法」の仕組みは、個人の成長(特に人格的な成長)を促す際には非常に有効なのだと思いました。

「認知行動療法」的な仕組みが成長につながる理由

1.自分の認知が「客観的」に見られるようになる

自分自身の考えや思い込みが、一種の「世界の見方」になっている状態では、その考えや思い込み自体が、自分を苦しめていることに気が付きません。なぜなら、その人にとっては、それが「正しく、疑いようもない」ことだからです。

例えば、「自分はどうしようもなく仕事ができない」と思い込んでいる人にとって、仕事での失敗は「避けようがない」ものに映ります。

でも、自分ではなく他人を客観的に見れば、その失敗の原因が、その人の「行動原理」に由来するのか、「認知」に由来するのか、「スキル不足」に由来するのかは、一目瞭然です。

「他人を見るように自分を見る」客観的な視点で見れば、自分がどのような思い込みを持ち、その思い込みがいかに行動を歪めているか、が明らかになります。

このように、自分の認知を「言葉で外に出す」ことが認知行動療法の第一歩になります。

免疫マップでは、自分の成長を阻害している「強力な固定観念」を言葉にすることにより、客観的な視点を得ることができます。

ただ、それを言葉にするまでが、なかなか大変ではあります。何しろ、ふだんは無意識の奥深くに、巧妙に隠しているものだからです。

ただし、それは、自分の成長課題と密接につながっているため、課題を深掘りしていけば、確実にたどり着きます。ポイントは、それを言葉にするときに「自分が不快感を感じるかどうか」ということだそうです。

2.行動によるフィードバックにより、継続的な改善ができる

認知行動療法では、認知の歪みを明らかにした上、その歪みが思い込みによるものか、あるいはそうでないのか、を「少しずつ行動に移して試してみる」ということをします。

「自分は仕事ができない。ゆえに、自分などが質問をするとあの上司は怒るだろう」という認知を持っていたとすると、それが思い込みなのか、ある程度の真実なのか、実際に行動に移してみた上で、試してみるのです。

このように、行動によるフィードバックが得られることで、自分の認知が、少しずつ補正できるのです。

免疫マップを作ることで、自分の成長を妨げる行動が「強力な固定観念」から生み出されていることが明らかになるため、それを乗り越えるための行動をしやすくなります。あとは、日々の行動によるフィードバックによって、「固定観念」を少しずつ補正していくことができます。

さらにDDOの場合、その人の成長を阻害している行動があったときに、お互いに指摘する・される、仕組み・文化があるため、弱点を乗り越えるための行動機会が日常的に多く与えられ、その結果、成長が加速するのでしょう。

まとめ

免疫マップの詳細の作り方は、「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」に詳しく書かれています。

いま、自分が置かれている環境が、DDO的なものでなかったとしても、個人からでも、自分を成長させるための取り組みは始められるので、興味のある方は、ぜひ取り組まれることをおすすめいたします。

ただ、人格の発達を含めた「個人の成長」は、痛みをともなうものです。そもそもなぜ、痛みを感じてまで、個人の限界に挑もうとするのでしょうか。

私は、成長することが、苦しさを超えた本質的な喜びに近いものだから、だと思います。

大人になってから、年齢を重ねれば重ねるほど、心の苦しさを味わう機会は減っていきます。慣れたこと、簡単にこなせること、単純に楽しいことだけで、毎日を埋めることは、容易になっていくようです。

ただ、そのことによって、自分の可能性や、成長の本質的な喜びが失われていくのであれば、何かしら、手を打たなければいけないと思います。

粘り強く取り組まなければ得られないような、価値のあるものに、有意義に時間を使いたいと私は個人的に考えています。

-世界の片隅から(よもやま話)