第4回:「トオリヌケ・キ」の謎
「プーとコブタが、狩りに出て、もうすこしで
モモンガーをつかまえるお話」
というエピソードがあります。
その中に
「トオリヌケ・キ」という言葉にまつわる、
コブタとクリストファー・ロビンの
やりとりがあるのですが、これが長いあいだ
謎だったんです。
コブタは森のまんなかにあるブナの木に
住んでいて、そのブナの木の近くに
「トオリヌケ・キ」と書かれた折れた板が
立っているのです。
クリストファー・ロビンがコブタに
「これは何だい?」と聞くと
「おじいさんの名前だ」
というのです。
「トオリヌケ・キ」というのは
「トオリヌケ・キンジロウ」の
ことなんですよ、とコブタは主張するのです。
よくわからないでしょう?
これは原文で読むと謎が解けるので
「トオリヌケ・キ」は
「Trespassers W」と書いてあるのです。
つまり「Trespasser Will(be prosecuted)」
(この先通り抜け禁止!)
が、欠けていた板だったんですね。
コブタは、「Trespassers W」が
「Trespassers Will」とつづくことは
わかるのですが、それが「通り抜け禁止」
という意味とはわからない。
だからきっとこれは「Trespassers William」
(=「侵入者ウィリアム」?)
という名前なのだろうと考えたのです。
翻訳者の石井桃子さんは、
「Trespassers William」を
「トオリヌケ・キンジロウ」と訳された。
こういう英語ならではの表現を、
面白さを損なわないよう、苦心して
日本語に置き換えていったんですね。
ちなみに、驚いたことに
「Trespassers William」という
そのものずばりのバンドが存在してました。
もちろん元ネタは「クマのプーさん」です。