第5回:「ゾゾ」は本当にいるか?

「クマのプーさん」のお話の中には
謎の言葉がたくさん出てきます。

そしてしばしば、説明されないまま
お話が進んでいきます。

「ゾゾ」もそんな言葉の一つでしょう。

*    *    *

「ゾゾ」は、プーとコブタが恐れる生き物で、
「クマのプーさん」と「プー横丁にたった家」の
二つの作品集に登場します。

プーとコブタは、大きな穴を掘って
ゾゾをつかまえようと計画するのですが
けっきょく、
ハチミツ壺をかぶったプーを、ゾゾと間違えて
コブタが肝をつぶしたり、
自分たちが掘った穴に、落ちてしまったりして
最後まで、ゾゾそのものは出てきません。

つまり、「ゾゾ」は、プーさんの世界の
架空の生き物らしいのです。

もちろん「ゾゾ」という言葉は
石井桃子さんが付けた秀逸な日本語で、
原文では「Heffalump」。

「Heffalump」とは、象を意味する
「elephant」に「H」が付いた単語、
つまり「象」を元にした生き物の名前、
ということのようです。

「ゾウ」=「ゾゾ」ということですね。
とても秀逸で、絶妙な名前です。

*    *    *

ウィキペディアその他では「架空の生き物」
ということになっていますが、そのへんは
どうも疑問ですね。

本当にいない、という設定なのか、
プーさんとコブタが、たまたま出会わなかった
だけなのか、物語ではグレーです。

このエピソードを読んでいると、
架空の生き物が実在していると感じていた
子供の頃の生々しい感覚がよみがえります。

「ゾゾは本当にいる!怖い!」という感覚を
コブタの視点で読むのか、大人の視点で読むのか
その視点次第で、
「ゾゾ」が実在するかどうかの答えが違ってくる、
と思います。

ともかく「プー横丁にたった家」の中のエピソード
「捜索隊がそきしされて、コブタがまたゾゾに会うお話」
※“そきし”は間違いではありません。
に出てくる、コブタとゾゾの想像上の会話は
最高に楽しいですよ!