選挙イヤーに観るべき超絶面白映画「立候補」

ヤトミックカフェ運営人の矢透泰文です。

ヤトミックカフェのポッドキャストでおなじみの大久保さん、佐藤さんと、ドキュメンタリー映画「立候補」を観てきました。一部のあいだで公開が待ち望まれており、もちろん私たちも楽しみにしていたのです。現に、観た日は満席で立ち見が出るほどでした。

いや、この映画をまずひとことで言うと「やばい」です。次に言うなら「間違いない」。最後にダメ押しで「観ないと、損」レベルだと思います。

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映画の注目は何といってもあの人

舞台は、2011年秋の大阪府知事・大阪市長のダブル選挙。大阪維新の会が仕掛けた選挙は、世間の注目集めました。これが「維新」の国政への進出の布石となったわけですが、その陰でひっそりと立候補していた、いわゆる「泡沫候補」と呼ばれる人たちのドキュメンタリーです。

注目は、何と言ってもマック赤坂氏に迫ったということでしょう。
知る人は知っていると思いますが、奇抜な政見放送「スマイルセラピー」でおなじみのあの人です。

マック赤坂氏はあの奇抜なパフォーマンスから

「目立ちたいだけで、受かろうという気がないのだろう」

と世間からは思われていたし、私もそう思っていたのですが、

秘書や息子さんへのインタビューで、そうではない、ということが明らかになります。つまり

「あの人は本気で受かろうと思っている」

という驚愕の事実。

マジかよ!イカれてるぜおっさん!

受かりたいのならば、なぜ、まじめに制作を訴えずにふざけたパフォーマンスを繰り返すのか?

・・・っていうか、そもそもマック赤坂って何者なのか?

そんな謎を解きたいならば、この映画を観るしかないのです。

日本の選挙の「ヘン」が浮かび上がる

立候補が「泡沫候補」になってしまう背景には、そもそも日本の選挙システムって変だよね、ということがあると思います。

本来、候補者を選ぶのに参考となるべき「政策」はほとんど訴えられず、重要視されるのは「受かるための戦術」ばかり。候補者の名前ばかりをがなりたてるうるさい選挙カー。情に訴えるドブ板選挙。有権者は文句をいうことすら許されません。選挙活動をやめさせようとしたかどで公職選挙法で逮捕です。

しかし、ただ目立てばいいというものでもないようで、現に落選をつづけるマック赤坂氏をはじめ有名な(?)泡沫候補たちを見ていればわかります。泡沫候補と有力候補のあいだには、深くて長い溝があるのです。

面白いのが政見放送です。政見放送は放送局によるいっさいの編集が入りません。そのこと自体は、言論の自由を確保して自分の政策を広く訴えるためなので良いのですが、いっさい編集が入らない、という特長を逆手に取って、不特定多数の人に対して自分の主張を述べる、という使い方をしている人がいるのは御存知の通り(この映画にも出てくる外山恒一氏が代表例でしょう)。

さらに挙げれば一票の格差や訴えられる政策に触れる機会の少なさ、争点の曖昧さなど、現在の選挙システムは明らかに欠陥品ですが、そうしたシステムの隙間にもぐりこんで、決して報われない情熱をじわりと燃やしながら「泡沫候補」たちのドラマが生まれているかと思うと、それはそれで感慨深いところがあります。もはや文学の領域です。

権力者の「怖さ」が画面からにじみ出ている

映画の中では、マック赤坂氏の傍若無人な選挙活動が記録されていますが(京都大学の学生とのやり取りは迷惑なオッサン以外何者でもない)、基本的に滑稽でペーソスあふれる感じです。

映画の終盤では、橋下徹氏や、安倍晋三氏の街頭演説に突っ込んでいき、「俺にも喋らせろ」と駄々をこねるマック赤坂氏の姿が描かれています。

そこであぶり出されるのは、権力者の「ホンマモンのやばさ」です。所詮「迷惑なオッサン」は「迷惑なオッサン」でしかないのですが、権力者は本物です。権力者が権力者たるゆえんである「暴力」をいかに背後に持っているか、ということが画面からビンビン伝わってきます。彼らは国会で野次を飛ばされたり失言でメディアに書き立てられているだけの存在ではないのです。やばいです。だからこそ私たちは誰に権力を渡すのか、をもっと真剣に考えるべきなのです。

さらに権力者をとりまく群衆が怖いし醜いのです。映画で出てくるのは、「その他大勢」にまぎれて罵声を浴びせる奴、「売国奴!」と大声で罵る奴の姿です。不気味だし怖いし気持ち悪いし、はっきり言って最低の奴らです。しかし、私だってふだんはもしかしたら群衆の中にいるかもしれないのです。そんなふうにハッとさせられるシーンでした。

そんな群衆を前に「はっはっはっ」と余裕をかましうそぶいて笑うマック赤坂氏。単純にかっこいいというのは語弊がありますが、いろいろあって胸熱なシーンです。

選挙イヤーに観たい映画。

映画「立候補」を観ると、良くも悪くも私たちはこういう国に住んでいるんだな、ということを実感いたします。

今年は参議院選挙が控えておりますが、想田和弘監督の観察ドキュメンタリー「選挙2」も注目です。前作「選挙」も合わせて観るのをおすすめします(この「選挙」ですが、海外では「コメディ」として捉えられることも多いそうです。そんなところが日本の選挙システムを考える上で面白いし怖いです)。

選挙映画、ということに限らず、1人ひとりの「こんなふうにしか生きられない人間」の生き様を堪能する、という「ドキュメンタリーロック映画」としてもおすすめです。とにかく超面白いよ!!!

-世界の片隅から(よもやま話)