2008年、北京オリンピック開催!
でも中国って、何だか遠いような印象があるぞ。

中国について知りたいときに、適任がいた。
中国史を研究する伊田さんだ。
いろいろなお話を聞かせてもらおう。

それでは、ゆるゆると、思索の旅に出かけましょう。


第3回

朝の新聞に、
華国鋒元共産党主席死去のニュースが載っていた。


彼の死により、文革終焉の内幕を知る人は、殆どいなくなった。

中国に多大な傷跡を残した文化大革命
そして、毛沢東。

中国共産党は、文革について

「指導者(毛沢東)が誤って発動し、反革命集団に利用され、
党、国家や各族人民に重大な災難をもたらした内乱である」

と結論づけている(1981年6月の党決議)。

しかし、その内幕・経過については、
明らかにされていない点が多い。
なぜなら、文革は建国の父ともいうべき毛沢東によって
発動されたのであり、
中国共産党にとって、できれば触れたくない
負の歴史であるからだ。



中国では、
各王朝によって前王朝の歴史書が編纂され、
公式の歴史像が定められてきた。いわゆる「正史」である。

辛亥革命によって、皇帝制度自体は崩壊したが
「正史」概念は形をかえて生き残った。
それが、
中国共産党による歴史評価=「官方歴史学」
である。

中国共産党は、古代史のみならず、
近現代史についても歴史的評価を定めてきた。

「官方歴史学」に反する歴史評価は、反革命的として否定され、
文革中には多くの歴史家・文学者が迫害された。

現在でも「官方歴史学」の権威は衰えていない。

特に近現代史の分野では、
「官方歴史学」を批判することは容易ではなく、
文革や毛沢東について、正面から論ずることは極めて難しい。

しかし、近年、「官方歴史学」の枠組みを越えた
新しい研究が増加し、文革や毛沢東評価などの
タブーに挑む研究も少なくない。

また、中国の「愛国的」歴史教育を批判する研究者も登場した。
こうした研究は、党組織の干渉が強いため、
未だ主流になっていないが、
徐々に「官方歴史学」を塗り替えていくことになるだろう。

今、中国の歴史学は新たな局面を迎えようとしている。



「官方歴史学」の問題は他人事ではない。

中国に限らず、どこの国でも地域でも、歴史学は
国家・政治と深い関係にある。

領土問題、教育、ナショナルアイデンティティ、民族問題・・・。

歴史研究者が積極的に国家・政治に関与していく場合もあれば、
実証的研究が、都合のいいように解釈され、利用されてしまう
場合もある。

歴史に携わるものとして、また、一市民として、
その点に常に自覚的でありたい。


参考文献
天児慧『中国の歴史11 巨龍の胎動』講談社、2004年11月
韓綱著・辻康吾編訳『中国共産党史の論争点』岩波書店、2008年7月