サービスとみかん
僕は、グラフィックデザイナーの
駆け出しである。
まだなってから1年も経っていないから、
新人も新人ということになる。
毎日毎日、
自分の至らなさ、能力のなさ、経験のなさ
を実感して、うーうー唸っている。
「君の作ったものじゃお金にならないよ」
と、やんわりと言われたりする。
そうなのだなあ。
お金になる、ならない、
ということをシビアに考えるようになった。
お金になる仕事って、何だろう?
やっぱりそれは
「サービス」があるかないか?
「サービス」ができているか、いないか?
ということなんだろう。
「サービス」というのは、
自分が他人に提供できて
かつ他人を喜ばすことができる
そういうもののことだろう。
僕は何を他人に「サービス」できるだろう?
「サービス」
というとき、ふと思い出したことがある。
おじいちゃんとおばあちゃんの家に
遊びに行ったときのことだ。
僕は大学生だった。
おじいちゃんとおばあちゃんは、
遊びに来てくれた僕に
みかんを出してくれた。
ふつうの甘いみかんだ。
僕はありがとうと言って
みかんを食べた。
・・・・
それだけの断片的な記憶だ。
みかんは特に珍しい果物ではない。
孫が来るからと言って、わざわざ
買ってくるようなものではない。
おそらく
部屋にあったものを、出してくれたのだろう。
「サービス」というとき
僕は何の変哲もないみかんのことを
思い出すことがある。
仕事で求められるサービスはもっと、
洗練されていることを求められるけれど
根底はあるものは、
みかんと同じなんじゃないかと思う。
おじいちゃんとおばあちゃんが
僕を歓迎してくれた、
ということが、大事なところなのだ。
そんなふうに、ふと思った。