死蔵のエッセイ(4)|自走する交通手段に憧れて
今年の5月の大型連休は、スーパーカブ110に乗って日光へ一泊でソロ・ツーリングに行ってきた。実に往復約350kmのツーリングだったが、スーパーカブは原付二種(小型二輪)に分類されるため高速道路は使えない。下道を数時間かけて走るのんびりした旅だった。
振り返ってみると、私は「自走する交通手段」を獲得するのに憧れ、挑戦しては常に失敗する、を繰り返してきた。
失敗の原因は、私の恐怖心と致命的な不器用さにある。
25年前、大学に入ったばかりの頃、筆記免許だけで取れる原付免許を取得したが、免許取得後に練習で乗った原付バイクが怖くて結局一度も乗らなかった。
大学を卒業する間際には車の免許を取ったが、免許を取ってすぐの頃に練習にとレンタカーで銚子にドライブに出かけた時、道に迷って細道に入り込んで車体に傷をつけてしまい、その後乗らなくなってしまった。いまだにペーパードライバーである。
そして15年前。今度は趣向を変えるべく、ロードバイクを買った。自転車であれば恐怖心と不器用さに勝てるのではないか、と思ったのだ。しかし、東京の道路を走ると、左車線が路上駐車の車で埋まっており、すぐ近くをばんばん車に抜かれるので逆に怖かった。そして次第に乗らなくなってしまった。
人が大丈夫なことが自分には怖く、人ができることが自分にはできない。私は自分にとことんがっかりした。
それでも私は「自分で運転して遠くへ出かける」という行為に憧れていた。単なる移動手段としてというよりも「好きなときに一人でどこでも行ける」という身軽さ・自由さへの憧れがあるのだと思う。
スーパーカブを中古で買ったのは2021年。Youtubeでツーリング動画を見ているうちに、バイクに、というかスーパーカブに乗りたくて仕方がなくなった。四度目の正直だとばかり、意を決して教習所に通い、小型二輪免許(AT限定)を取得し、中古のスーパーカブを購入した。
手に入れたときは嬉しかったが、道路を走ってみると、やっぱりおなじみの恐怖とのたたかいになった。
いかんいかん、このままではまた元の木阿弥だ、と少しずつツーリング練習を重ねてきた。車の通りがほとんどない裏道を走って練習したり、1日かけたツーリングに出かけたりして練習してきた。
特に長いツーリングでは、毎回のように道を間違え、バイパスの車の流れ速さにビビり、寄られて煽られ・・・と、怖い思いをしてきたが、ようやくようやく、少しずつ運転に慣れ始めてきたように思う。これまでに少しずつ距離を伸ばして総走行距離は3,000kmを超えた(それでも全然少ない方)。
昨年の大型連休には、車の免許取り立ての私にトラウマを植え付けた銚子へのツーリングに成功し、人生の宿題を一つ片付けたような気持ちになった。