色落ちとは、「衣服や布地などの色が落ちること。」
はじめは色鮮やかだったものが色あせていく、とは、
まるで人の記憶のよう。
狭い部屋にあふれている、一つ一つの「もの」と、
その記憶を綴ります。

スリッパの話


一人暮らしをはじめるとき、引越しの当日に買ったスリッパを、
いまだに使っている。

『無印良品』で買った。灰色である。

どうして、そのスリッパを買ったのかまったく憶えていない。
特別に、こだわりはなかったと思う。
引越し当日に慌ててバタバタ買った、という記憶が残っている。

はじめて家を出るというのに、雨がふっていて空は暗かった。
心細いのと、どこか興奮しているのとが、ないまぜになった気持ちで、
スリッパを買ったのを憶えている。

今でもスリッパというものにこだわりはない。
むしろ、スリッパにお金を出すのは惜しい。

しかし、それでもその後いくつかスリッパを買ったけれど、
最初に買ったスリッパは、なかなか良い買い物だったなあと思う。

履き心地はわるくないし、帰ってきてスリッパに足を通すと
ホッとする。