空き地で遊べない奴は、どこでも遊べない。
これは、とある人に聞いた『空き地理論』。

何をしたって、どこを見学したって、楽しさを見つけよう。
空き地でも堂々と遊べるような大人になろうじゃないか。

表参道で湯に入ろう


突然ですが、こちらをご覧ください。



表参道ヒルズ。


最近、
やれ東京ミッドタウンだの、新丸ビルだの、
そういう浮ついた名前が飛び交っている。

ちょっと、待ってほしい。

少し前までは、
表参道ヒルズ だったではありませんか。
そんなふうに騒いでいたではありませんか。

それがなんだ。
防衛庁の跡地に、ちょっとでかい建物が
建ったからといって。

僕は、お洒落とか『モード』とかには
まったく疎いのウートンだが、
(ウートンってなんだ?)

『今』の発信地は、
表参道、青山からと相場が決まっている
のではないか?

そんなふうに思うのである。



表参道沿いにある表参道ヒルズ。


僕は、表参道、青山が好きだ。

歩いていると、活気のある空気に、
心が弾んでくるから。



表参道の交差点あたり。




・・・しかし、同時に。

お洒落とか服とかにお金をかけない
僕のごとき
『非・今』
な人種はやはり、

あの今を生きる空気に、ときおり
劣等感を感じるのも否めない。



今を生きているイメージ。


つまり、
誰もそんなことを言っていないのに

「ダサいって何!?」
「オレみたいなのはここに来るなってこと!?」

と、被害妄想モードに入るときがあるのだ。
ああ、何て悲しい人間であることだろう。

好きなものを好きと言える気持ちを
抱きしめればよいではないか。


槇原先生もそう歌っているではないか。



お洒落な同潤会アパート跡地。


そんなとき。
街がまるごと、自分と敵対しているような
気分になったとき。

僕はある秘策に打って出る。

これだ。











風呂に入るのである!




清水湯 港区南青山3−12−3


ここ、清水湯は、表参道駅から徒歩3分。
まさに、
お洒落の中心地に建つ銭湯である。


なーんか、ね。
青山と




銭湯




何だか不釣合いな気もするけれど、
それだけに、ちょっと愛しい光景だ。

なに、
どんなにお洒落タウンだろうが、
風呂に浸かってしまえば、オラガ街じゃい!!
とばかり、気勢を上げて
銭湯に入ってみることに。





清水湯への入り口。



肝心の入湯料は、430円。



手ぶらで来ても、大丈夫。



これは、
東京都の銭湯の共通の値段と思う。
数年前と比べて、少し値上げしたようだ。
やはり経営が厳しいのか。

もっと、みんなどんどん
銭湯に行ったほうがいいと思う。
スパリゾートなんかに
うつつを抜かしている場合じゃないぞ。

こういう日常サイズの幸せを、
もっと自分に許していいんじゃないか。




脱衣所から、見える庭。
鯉が泳ぐ池があった。なごむ。



・・・
そんなことを考えながら、
湯上りにぼうっとしていると、


「兄ちゃん、冷たいもの飲むか」


という声が。

見ると、おじさんが小銭を僕に
手渡そうとしている。

え、え?
と戸惑っていると、おじさんが
いいから、いいから、と言って
僕に120円くれた。

「あ、ありがとうございます! ご馳走様です!」

わけもわからずお礼を言う僕を残して
おじさんは銭湯を出て行った。

僕は、いただいた120円で珈琲牛乳を飲む。

もしかしたら、
僕が貧乏学生に見えたのかもしれない。

風呂なしアパートに住む、
苦学生に見えたのかも。

・・・おじさん、
それはちょっと前の僕さ。
今は、
決してお金持ちではないけれど、
ちゃんと家に風呂があるんだよ。

人から親切を受けると、
こんな親切を受ける資格が、
果たして自分にあるのかと戸惑うけれど、

しっかりとその親切を受けること、
また、その親切を誰かに返すことが
大事かもしれないなあと思ったりした。

見知らぬ人からの、
120円の形をとった好意をいただいた僕である。

お洒落とか、ナウイとか、
そんなことではなく、

やっぱりいいなあ、この街は。
と思った。



風呂上りの表参道。






(終わり。)