第4回:大日本人は、ちゃんとした映画か?


矢透
たけしさんは、映画を壊すというか、
定型を壊す方向に行きますよね。

仲尾
でも、たけしさんはきっちり何本も、
「Dolls」とか「キッズリターン」とか
バイオレンスではないものも撮ってきたし、
映画を本当に愛していると思うんだけど
その上で壊しているから、
一作目でいきなり壊している松本人志とは
ちがいますよ。

矢透
なるほど。
さっきチラっと言っていた
「大日本人」
なんかは、どうですか。

仲尾
「大日本人」は・・・そうだなあ。
僕はそんなに面白いと思わなかった。
あんまり、映画になっていなかった。

矢透
どこらへんが、
映画になっていなかったんだろう。

仲尾
なんていうのかなあ・・・
「大日本人」は、壊そうとして壊していて、
映画をぶっ壊してやろう、ということで
作ったと本人も言っているけど、
その割には映画になっちゃってるし・・・
なんていうか、
「面白くなかった」んだよね。

矢透
仲尾さんは、松本人志は好きなんだっけ。

仲尾
大好き。
でもあれだけCGを使われると、ちょっとなあ・・・
やっぱり面白くないとね。
面白かったらいいんだけど。

矢透
そうだねえ。難しいですね。
ぶち壊し方と、残し方のバランスというのが。
例えば、
「映画としてちゃんとしている」
って、どういうことなんだろう?

仲尾
いろんな映画があるけど
基本的には、
「観客に見せるものとして、
エンターテインメントとして」
作っているかどうか、ということかな。

松本人志は、そうしていない気がする。
ある意味で、
松本人志にしか撮れないものだったと思うけど・・・

矢透
コントでやっていた世界を、
「映画」というフォーマットに
持ってきたときにどうなのか、
ということもあるのかな。

仲尾
「松本人志が撮った映画」
としてはとってもいいんだけど
あの人は「映画監督」ではないな。
結局、映画というフォーマットを使って、
松本人志がやりたいことを
やっただけの映画、というような気がする。


矢透
映画というものに奉仕するのか、
それとも、映画を使って何かするのか。

仲尾
うん。たけしさんはやっぱり
「映画監督」として映画に向かっていると思う。

「TAKESHIS'」とか「監督・ばんざい!」は
正直面白くないけど、模索してるなって
感じはしたし、
たけしさんにしか撮れないものだ
という感じはしたから。
でも「監督・ばんざい!」は、完全に混乱してるよね。

矢透
それは意図した混乱なのか、
それとも本当に混乱しているのか、
どっちなんだろうね。

仲尾
両方、なんじゃないかなあ。
とりあえずここは混乱しておこう、という。

ここまで混乱している自分をさらけ出せる
というのがまたすごいよね。
「今は混乱してるから撮るのをやめます」
じゃなくて
「混乱しているけどよくわからないものを撮ります」
って撮っちゃったわけだから。

矢透
でも「世界のキタノ」が、
まさか27時間テレビで真夜中に
爆発してるなんて。

仲尾
そこが凄いと思うなあ。
映画も撮り続けてるし、テレビにも出続けているし。

たけしさんは、
ただ映画が好きなだけなんだよね。
バイオレンスを撮ったら、たまたま
認められて巨匠になって・・・本人は
「たまたまだ」っていう意識が強いと思う。

今回の新作の「アキレスと亀」なんかは、
全然違う映画になってましたね。

矢透
混乱は残ってる?

仲尾
混乱からは抜け出てると思ったけどね。
新しいキタノ映画になっていると思う。


次回、「時代が変わる、映画も変わる」につづきます!