カフェ参詣


はじめてのカフェに入るときの緊張を、
なんと例えたらよいのだろう。

しかし、勇気を出して悪いことはない。

思えば、
名前こそ知っているが、行ったことのない
カフェがたくさんある。

カフェは、寺である。
カフェは、体験しなければ意味がない。


僕は、カフェを参詣することにした。



第6回 渋谷『カフェ・アプレミディ』



もし、日本に「カフェ文化」というものがあるなら、
『カフェ・アプレミディ』にこそ、あるのではないか!

思えば、2000年ごろ起きたカフェ・ブームの
火付け役的なカフェのうちの一つが、ここだと思う。

しかも渋谷ときている。
今でこそ渋谷は、新宿的な雑多煮の街に
なったように思うけれど、
90年代はお洒落の一大発信地であった。

いわばお洒落の硫黄島であった。

だから、渋谷に行くと今でも少し緊張する。
中学時代に受けた
「お前は渋谷に向いていない」
という意味のわからない中傷が聞こえてくる。

しかし、恐怖に負けないように参詣である。
このカフェは、一見何の変哲もない雑居ビルの
中にある。
だから、エレベーターを降りるまでは、
本当にカフェがあるのか不安になる。

しかし、心配御無用と言わんばかりに




エレベーターを降りると、店内が見えてくる。
店内は、一瞬まばらな印象を受ける。
テーブルと椅子が、統一されていないのだ。




しかしひとつひとつ、とても座り心地がよさそうだ。
配置もきっと、計算されているのだろう。
なお、混雑時は相席になるらしい。

僕はエスプレッソダブルを注文。
店内には買うこともできる、閲覧用の本が置いてあるが、
植草甚一の本があるのには、チョット狂喜した。
(チョット狂喜とはどれくらいなのか)




僕が参詣したのは、天高く馬肥ゆる秋の午後であるが、
この光景を見てください。




このウットリな窓辺はどうだろう。
店内にかかっている音楽もまた、午後に合っている。

音楽がすばらしいのは当然で、
『カフェ・アプレミディ』は、音楽誌『サバービア・スイート』を
手がけた橋本徹さんが始めたカフェなのである。
店名と同名の、コンピレーションアルバムまで出ている。




非常にお洒落なカフェではあったし、僕も緊張しながらの
参詣だったが、堅苦しさを感じさせなかった。
リラックスしすぎて、少し居眠りをしてしまったくらいだ。

訪れたのは晴れの日だったけれど、雨の日に出かけるのも
また格別なんじゃないかと思う。

(了)