カフェ参詣


はじめてのカフェに入るときの緊張を、
なんと例えたらよいのだろう。

しかし、勇気を出して悪いことはない。

思えば、
名前こそ知っているが、行ったことのない
カフェがたくさんある。

カフェは、寺である。
カフェは、体験しなければ意味がない。


僕は、カフェを参詣することにした。



第1回 吉祥寺『FLOOR!』


第一回目は、『FLOOR!』に参詣である。

このカフェは、何だか名前だけ知っており、
いつか参詣しなくてはと心に決めていた。

何しろ、吉祥寺という場所。
そして、キャバレーの控え室を改装したという、
むき出しのコンクリート。

とことんにダウナーなお洒落カフェである。

心が雑念に悩まされているときは、
ここに参詣することをオススメする。

はじめての参詣に臨まれる方は、ぜひ、
この外観を目印にしていただきたい。




・・・・
ほとんど廃墟である。
いや、こう言っては失礼なのだが、とてもカフェが
あるようには見えない。

この建物の3階に、目指すべき『FROOR!』がある。

ひるむことなく階段を上っていくと、




唐突に、扉が現れる。
この扉が、参拝のものを待ち受けるのだ。

果たして、この先にどんな景色が待ち受けているのか。

「いらっしゃいませ」




中に入ると、外観からは想像もできない
別世界が広がっている。

まるで手品を見せられたようである。

もういちど、はじめの写真を見ていただければ
この驚きがお分かりいただけると思う。

それだけではない。
さらに仰天のジジツが待ち受ける。

さっそく注文をしようと思い、メニューを広げたが、
コーヒーが見当たらない。

お茶ばかりなのである!!

アジア各地のお茶、お茶、お茶。

そう、ここは、お茶を主に出すカフェなのだ。

もっとも、僕は初参詣の緊張から、
アイスコーヒーを血眼になって探し出して
注文してしまった。

臆病なのだ。これでは参詣も泣いている。




しかしもちろん、アイスコーヒーも美味しい。
そこはかとなく漂うハチミツの香りが良い。

店内には、大量の雑誌が積み上げられている。
『Relax』『STUDIO VOICE』『流行通信』『太陽』
などなど。

お洒落である。
あるべくしてある、といった風情がある。

そして、この天井を見よ。




このむき出しの梁。
この無骨さが、カフェの懐の深さを感じさせる。
(だんだん渡辺篤史めいてきたな)


店内に薄く、夏の夕景が光を落とし、
店のかたわらを通る電車の振動に揺られる。

日曜日の喧騒は次第にかき消えて、僕は
深い深い安らぎを覚えていくのであった・・・。



(了)