43 沈黙
「上手ではないけれど、
君たちの音楽は一番温かかった」
「不覚にも泣きそうになってしまった」
わたしの書くものは
わたしの奏でるものは
それほど、上手くはないけれど
人のココロに触れる力があると
自負している。
だって触りたいんだもの
君のココロのある場所を。
だって知りたいんだもの
あなたのココロのある場所を。
**************************************
17歳のヴァイオリンの発表会で
神様と出会ってしまってから
何となく先生の言うことが
聞けなくなってしまった。
それまでのわたしは
よく言えばレールの敷かれた人生だった。
勉強も良くできたし
先生や近所の評判も良かったし
決められたことを間違いなく
こなしていけば
賞賛され続けるであろう道のりには
疑いがなかった。
でも、17歳のあの日から
いろんなことが変わり始めた。
わたしの中で何かが目覚めた。
ヴァイオリン教室は破門になった。
先生はジプシーが嫌いだったから
あるいは、
わたしが何かに目覚めてしまったから。
管弦楽部の部長に推薦されたが断った。
あっちの世界を知らない人たちと
一緒に音楽なんてやりたくなかったから。
そして
当時付き合ってたボーイフレンドの勧めで
エレキギターを買った。
なんだか、わかりやすく陳腐な
青春物語ではあるけれども。
そのころ、中学時代からの友人と
二人だけの読書会を開くのが
予定のない日曜日のささやかな楽しみだった。
その子がある日
遠藤周作の「沈黙」を持ってきた。
「沈黙」を読んだことがある人なら
わかると思うが
わたしも例に漏れず、
読みながら具合が悪くなった。
読み終わったあと大きな壁が
がらがらと音を立てて崩れていく
のが聞こえた。
そして寝込んだ。
3日間うなされた後
目覚めた朝はさわやかだった。
でも、
もう二度と元には戻れないような気がした。
そして、嘘を見抜ける身体を手に入れた。
それから、5年後の秋
わたしは地下にある小さなライブハウスで
もう一度神様と出会うことになる。
**************************************
べつに嘘でもかまわない
あなたがここにいるのなら