23 古巣
久々に古巣へ帰った。
しゃるが昔コーヒーばかり飲んで
小説ばかり読んで
音楽の録音機材とシールド
(接続用のコード)に埋もれて
小さな木造アパートの二階で
暮らしていたころの町だ。
ハイヒールも上手に履けず、
コンバースのスニーカーにピーコート
だったころの町。
この町の人々のプライドが高いのは
相変わらずだった。
豊かになっているのは寡黙で
優しげな人たちで
かつて女の子たちに騒がれ、
追い掛け回されていた当時のアイドルたちには
蔭りがさしていた。
多感な時代に
羨望と崇拝を集めてしまうのは少し悲しい。
親には養われ、外では崇められ
社会の仕組みをキックアウトすれば
かっこいいと後輩や女の子たちに
眩暈を起こさせ
でもそんな自分達を支えているのは
キックアウトしたその社会であることに
気付かないでここまできてしまった。
そんな悲しさ。
当時はクールでハードで
かみそりみたいな遠い存在だった人たちは
しゃるに道化を演じるようになっていた。
しゃるの目の前で
大切なはずの自分の人生を
ぐにゃりと曲げて見せた。
しゃるがただ、媚びなくなったという
ただそれだけの理由で。
かつて道化だったしゃるは
赤いジャケットに皮手袋の女王様だ。
それはただ、媚びなくなったという
ただそれだけの理由で。
だけど悲しい。
わたしはみんなを愛していたから、
道化だってよかったから。
自分の人生を
自分で愛して生きることは
難しいことなのだろうか。
自分の人生を自分で愛して生きたなら
それは大丈夫だよ。
そう伝えたかった。
教えるのには時間が掛かる。
だけど、不用意に発した言葉は
しばしば人を狂わせる。
それが些細な歯車だとしても、
何かを創る人間にとっては
その小さな歯車の不調ひとつで
機械が回らなくなることもあると、
しゃるは知っている。
そう、
だからやみくもには言葉を発せられない。
いつか、彼らに伝えたい。
自分の人生は先ずは自分で愛しなさいと。