舎流楼灯(しゃるろっと)さんのコラム。
「そばにあるもの」から、さらに世界を広げて
どこへ、いく、のか?


20 仕事(3)

そんな状況で、
それは一見媚びてるようにも見えたが

向けられたまなざしは、差し出された手は
しゃるとの絆を求める子供のようだったので
最初はしっかりと握り締めた。

媚びることしか
抱きしめてもらう方法を知らないのだと
一抹の胸の痛みを感じながら。

しかし、
しゃると女の子達の絆が強くなっていくにつれ、
社長は恐怖におののいた。

ある日呼び出され、

「お前は会社を乗っ取る気だろう?!」

と詰め寄られた。

そんなこと、考えもしなかったのに、
社長の言葉にしゃるは驚いた。

確かにたった30分くらいの短い食事を
ともにしただけで、
なんだかその子たちが、
がっちりわたしにくっついて離れない感じに
なっている気がした。

みんな自分の話がしたくて
しゃるに聞いてほしくてむずむずしていた。
つまりそれが
そういうことだったのかもしれない。

後から社長は
状況が知りたかっただけだと言った。

しゃるはそれまで、その仕事で
プレイヤーとして名を上げることだけ考えて
生きていたので、その時は

女の子達の話のどこまでが世間話で、
どこまでが二人だけの話にしておいてほしいのか
さっぱり見当も
つかなかなくなってしまっていた。

それくらい、自分という存在を滅して
ただただ仕事に没頭していたからだ。

上司に安心してもらうためには、
的確な情報伝達は必要だ。それはわかる。
だけど、
線引きが完全に出来なくなっている自分もいた。

仕事の業績以外のことも
念のため把握していたかった社長に
どこまでを話し、どこまでを口止めすればいいか
わからなかった。

社長は全て話せといったが、
聞いたこと全てを話せるはずなどない。

女一人の力で生きてやるのだと息巻いていた
当時のわたしには
世界中のどこにも心を許して話しをするような
特別な人はもういなかった。

そしてそのポジションに、
社長を据えるわけにも行かなかったからだ。

必要なことだけ必要なタイミングで情報伝達する。

それはたとえ上司が全て話せといっても、
そうではないことのほうが多い。
そして全て話してしまうことには
なんともいえない恐怖があった。

あれは一体何だったのだろう。
そして、結局何も話さないままでいた。

そんなこんなで、いろいろともめたくせに、
しゃるにはまだその職場に居場所がある。

(つづく)