第1回

2 004年夏、アテネオリンピック開催。
その時、僕は中国にいた。


北京、大同、洛陽、西安、そして固原。
初めての単独調査旅行に出ていたのだ。

昼は遺物・遺跡を見て回り、夜はぼんやり本を読む。

最後に訪れたのは、寧夏回族自治区の一都市、固原。
観光名所も少なく、目当ての博物館も閉鎖中だった。
真夏にも関わらず、15度を下回り、とても寒かったのを
覚えている。



アテネオリンピックの記憶と言えば、
この固原の安ホテルで寒さに震えながら、
ぼんやり眺めた女子射撃だけである。

北京オリンピックが開催される今年、僕は日本にいる。

オリンピック開催国・開催都市について、これほど
多くの注目がよせられたのは、はじめてでは
ないだろうか。

アテネはどうだっただろうか。
シドニーは、アトランタは、バルセロナは……。

でも、テレビのなかの中国は、なんだかとても遠い。



オリンピックがはじまれば、連日連夜、マスコミは
ガンバレ日本を叫ぶだろう。
オリンピックに無関心でいたくとも、否応なしに、
その渦に飲み込まれてしまうだろう。

そんな時、多分、僕は思い出す。
ただ、ぼんやりと眺めたアテネオリンピックを。

あの、静かな場所を。