カフェ参詣


はじめてのカフェに入るときの緊張を、
なんと例えたらよいのだろう。

しかし、勇気を出して悪いことはない。

思えば、
名前こそ知っているが、行ったことのない
カフェがたくさんある。

カフェは、寺である。
カフェは、体験しなければ意味がない。


僕は、カフェを参詣することにした。




第9回 世田谷区成城 『沙羅』




世田谷美術館に行った帰りに、
疲れたので参詣(※)した。

※参詣=カフェに立ち寄ること




何の前知識も、評判もなく、
ただ駅前にあったから、というだけの
理由で入ったのだけれど、
これは成功だったと思った。

カフェ、というよりも
『喫茶店』というにふさわしい。




喫茶店とカフェを分けるのは
非常に繊細な差異なのだが、
その一つに
『片隅感』
というべきものがある。

喫茶店は、世界の片隅である。

生活の中で、一息をつくための
エアポケットでなければならない。

喫茶店には、多少の薄暗さが
必要だと思うのだ。




注文したのは、ハムトーストセット。
オリジナルブレンドがついて、790円。
やや、世田谷区価格か。
そうでもないか。

このオリジナルブレンドが、また
美味しいのだ!

焙煎したての香ばしい
香りが漂っている。
苦すぎず、酸っぱくもなく、
まさに清涼。




店の中を見渡せば、
もの書く人あり、読書する人ありと、
正しき喫茶店の姿が。

その中で、二人の老婦人が上品に、
お互いに勘定を支払いたがっている。

「この次はごちそうになりますから。
ほんとに今日は楽しゅうございました。」

「そうですか。近いうちにまた、必ず。
ほんとに今日は素晴らしい日でしたわ。」

スマートな譲りあいであった。
この、世田谷的カンバセーション!

さらに店内には、
喫茶店度を高めるアイテムがあった。




10円玉を入れる、ピンクの電話である。
ピンクの電話・・・何も言うまい。

しかも、この電話を使っている人がいた!

ジーコ、ジーコと
ダイヤルの音も懐かしい。

駅前のスターバックスは
痛々しいほど混んでいたが、
こちらの混み具合は、程々。

つぶれてほしくはないが、
混雑してほしくもない、
まさに、人生のエア・ポケット!

・・・
おそらく、
ガイドブックやインターネットでは
見つけにくいと思うので、
当コンテンツ初の、住所掲載を決行します。


『珈琲 沙羅』
東京都世田谷区成城2丁目40-3


皆様も、ぜひ訪れられたし。




(了)